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時々、必要に迫られた食。


by mutsu-toru

Sopa スープ 少年とおっさん

ドリアを熱している間、釜戸では別の料理が用意されていた。

ある者は、たまねぎと鱈の身をお湯にポトポトンと入れてぐつぐつと煮込んで、スープを作った。鱈からは海の風味が滲み出し、それはたまねぎの甘みと絡まりあって人々の空腹感を煽った。ぐうううとお腹を鳴らした少年が言った。

「おいら、こんなスープを食べるのは船に乗っていた時以来さ」

「むむ、君はどの船に乗っていたのだい?私は”曇りの日でも心は晴天号”に乗っておったがね」

「おいらが乗っていたのは”にんじんジャガイモたまねぎ号”だよ」

「そうかい、あれは勇敢な男たちの乗った船じゃった。ああ、君、スープはね、食べるのではなく、飲むのだよ、いや、食べるというのかな?どちらだったかな?ぬはは、私がわからなくなってしまったよ、だがね、このぐつぐつと音を立てているおいしそうなスープは、食べても飲んでも、いずれにせよ、幸せな気分に我々をさせてくれるはずだよ、ぽぽぽ」

「おっさん、面白いこと言うね、だからおいらは船乗りが好きさ!!」

出来上がったスープを口にした時、それまで拡がり続けていた我々の空腹感は満足感と期待感へと変貌を遂げた。お腹を空かしていたことが良い事だったように思われ、また適度な刺激を受けた胃が目の前に置かれたドリアへの意欲を示したためだった。
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少年は「海の音が聞こえる」と言った。
おっさんは「まさに心は晴天だよ、ぽぽぽ」と言った。
by mutsu-toru | 2007-04-11 16:31 | Toru